考察

考察

このページのコンテンツ

考察

A 一部業務独占の導入

今回調査した国のうち、イギリス・フランスの一部の重要な歴史的遺産等では有資格ガイドのみが案内を行える点が特徴的であった。有資格ガイドを活用するメリットとしては、品質の高いガイドサービスが提供できること、訪れる旅行者に文化財の価値を十分に伝えられ、かつ旅行者が文化財を傷つけることのないよう配慮できることが考えられる。また、ガイド志望者にとっても、資格を取得する動機づけになり得る。日本においても、重要な観光資源について有資格者の案内を推奨する施策は検討の余地がある。


B 教育機関の活用

フランス・タイでは大学・団体等が資格認定の講座を運営している点が特徴的であった。教育機関を活用するメリットとしては、講座内容の品質が担保できること、より多くのガイド志望者が講座を受講しやすくなることなどがあげられる。

日本でも鹿児島県世界文化遺産地域通訳案内士のように、教育機関にて研修の一部を実施する例もある1)。今後、自治体が各地の教育機関と連携する、あるいは教育機関が主体となることで、地域に根差したガイド育成が可能となり、より全国各地に迅速にガイド制度を展開できるのではないだろうか。


C 資格・認定における実務面の重視

各国制度と比較した際に、日本の全国通訳案内士制度は、国が主導して制度を統括している点が特徴的である。全国通訳案内士制度においては筆記試験に一部免除規定があるものの、試験全体を代替するような試験・資格認定制度は他に存在しない。国全体で単一の認定制度が運用されることで、ガイドのサービス品質が担保しやすいと考えられる。

また、資格制度についても日本は特徴的である。2018年に導入された登録研修期間研修は受講が義務化されているが、今回調査した8つの国・地域で更新を定期的に必ず行うのは日本・アメリカ・台湾・タイで、なかでもハワイ州(アメリカ)・タイは事務手続きのみとなっている。日本のように研修を義務化することによって、活動していないガイドの特定やサービス品質の向上を図ることができ、国としてのガイドのサービス品質担保につながると考えられる。

イギリスでは実技試験の比重が極めて大きく、また、台湾は資格取得後に90時間程度研修を受講するなど、実践的スキルを重視した制度が特徴的であった。イギリスのブルーバッジに関しては、車両を使ったツアーが実技試験に含まれており、加えて試験内でツアーの企画設計も行う必要がある点で、極めて実践的な試験と言える。また、台湾でも専門知識や実務能力について屋内外での研修が行われ、最終テストも実施される。今後日本でも、ツアーの企画設計や観光地での実技、資格取得・認定前の実践的な研修の導入を検討する余地がある。


D 母国語ガイドの人材育成・認定導入

今回調査した国のうち、日本・フランスを除く国・地域では母国語・通訳の区別なくガイドの資格・認定制度が運用されており、日本・フランスのみ母国語ガイドの資格制度が存在しなかった。日本・フランスを除く国・地域において、母国語能力は大学学位の証明や筆記試験・口述試験を通じて測定し、その他の知識・スキルの要件については概ね通訳ガイドと共通となっていた。これは言語が異なっても求められる知識・スキルは同等であると捉えられているからだと推察される。母国語ガイドの認定制度が存在するメリットとしては、自国民がサービスを利用するにあたってサービス品質の高いガイドが明確になり、結果として社会全体としてのガイドの質が向上することが考えられる。

日本では今も、団体ツアーガイド、エコツーリズムガイド、施設ガイド、ボランティアガイドといった多種多様な日本語ガイドが活動しており、ガイドとしての経験が豊富で能力も高いガイドが数多く存在する。日本語ガイドの認定を行う制度を構築することも、今後検討できるのではないか。


E ガイドに関する評価基準の標準化

今回の調査では、ガイドのサービス品質に関して特に国際基準は設けられていないことが判明した。UNWTO(国連世界観光機関)は観光施設や旅行業者向けのガイドラインを整備しているが、ガイドの評価基準については公開されたレポートを発見することができなかった。
また、国家間のサービスの交換を助けるため標準化活動の発展を促進するISO(国際標準化機構)では、観光サービスにおいて国際規格の整備を進めているが、宿泊施設や各種アクティビティに関する規格開発に留まっており「ガイド」は含まれていない。WFTGA(世界観光ガイド協会連盟)も、各国のガイド協会と連携しているものの、ガイドの評価基準については資料を公開しているようには見受けられなかった。国内では厚生労働省が各企業・団体で人材育成に活用し、社会におけるサービスの品質向上を目的として、ホテル業等の56業種で「業種別職業能力評価基準」を整備しているが、ガイドは含まれていない2)

ガイドには様々な種別が存在するが、「旅行者を希望する言語で案内し、その地域の遺産や施設などの観光資源について説明を行う」点は共通しており、国際的なガイドのサービス品質基準が整備されることが望ましい。そのメリットとしては、各国のサービス利用者にとって優良なガイドが明確になること、結果として各国でのガイドのサービス品質が向上し旅行者が恩恵を受けることがあげられる。